H3ロケットに自動車用電子部品を使う理由
H3ロケットでは、量産される自動車用電子部品を使ってコストを抑えています。ただし、安い部品をそのまま使うわけではありません。宇宙で必要な条件を満たすかを評価して選ぶことが前提です。[1][3]宇宙へ飛ぶ機械なのに、自動車の部品を使う。それで必要な性能を満たせるのか、気になるところです。
私はまず、仕様の規格化で加工や組み立てのコストを抑えられるのではないかと考えました。宇宙専用の部品に比べて、精度が低いから安いのかもしれない、とも思いました。
JAXAと部品メーカーの説明をもとに、部品選びの仕組みと、そこから私が予想したことを分けて整理します。
大量生産が部品のコストを下げる
JAXAの試験機2号機向けプレスキットには、従来の宇宙用部品は特殊な仕様で、使う数も少ないため高価だったと説明されています。一方、H3では航空機用や自動車用の部品を活用。大量生産される部品の安さを、コスト削減につなげています。[1]
ここでいう自動車用部品は、車そのものをロケットに流用する話ではありません。電子機器などを構成する部品の選択肢を、宇宙専用品だけに限らないということです。
たくさん作れると、設計や生産設備にかかる費用を、多くの製品で分担できます。一般的な量産の考え方です。たとえば同じ開発費でも、100個で負担するのと1万個で負担するのでは、1個あたりの金額が変わります。これは仕組みを説明する仮の例で、H3の実際の費用ではありません。
私が最初に考えたのは規格化でしたが、資料から確認できたのは、「どれだけ多く作るか」が安さにつながるという点でした。
精度と使える環境は分けて考える
では、安い部品は宇宙専用品より精度が低いのでしょうか。
少なくとも、今回の資料から一律にそうとは言えません。H3の慣性センサユニットを開発した日本航空電子工業は、性能の向上と信頼性の確保、コスト削減を同時に進めたと説明しています。その取り組みの一つが、車載用電子部品の採用でした。[2]
慣性センサユニットは、ロケットの姿勢や動きを把握するための信号を出す機器です。同社は、高い精度だけでなく、振動や衝撃、真空、放射線といった環境への対応も必要だとしています。[2]
測定がどれほど正確かという話と、使う場所で正常に働き続けられるかという話は、分けて考える必要があります。「自動車用だから低精度」「宇宙専用なら何にでも使える」という単純な上下関係では整理できません。
宇宙で使えるかを評価して選ぶ
JAXAの2023年10月26日の報告書には、民生部品の採用にあたり、放射線試験による耐性評価を行い、他の宇宙部品と同等の品質保証プロセスを経たと記されています。試作モデルや地上試験モデルでの検証も行われました。[3]
つまり、車で使えている部品を、そのまま無条件で宇宙へ持っていくわけではありません。必要な条件に合うかを評価し、機器やシステムとしても確かめる。その手間まで含めた部品選びです。
なお、この報告書は試験機1号機の打上げ失敗に関する原因究明の資料です。部品の評価を行ったことと、ロケット全体の信頼性が保証されたことは同じではありません。試験や品質保証を経ても、組み合わせ方やシステム全体の検証は引き続き重要です。
H3の低コスト化には、生産方法や設計の見直しも含まれます。自動車用電子部品を使うことだけで、打ち上げ価格が決まるわけではありません。[1]

打ち上げが安くなれば利用企業は増えるか
信頼性を保ちながら打ち上げ費用が下がれば、今よりも多くの企業が宇宙を利用するようになるのではないか。私はそう予想しています。
費用が下がれば、これまで採算が合わなかった計画にも、実現の余地が生まれるかもしれません。これは私の予想で、今回確認した資料だけで企業の利用増加が証明されたわけではありません。
また、衛星を利用する事業には、打ち上げ以外の費用や準備もあります。衛星そのものを作る費用、運用の体制、希望する時期に打ち上げられるか。利用が広がるかを見るには、こうした条件も一緒に考える必要があります。
この予想を英語で表すなら、次の一文になります。
If launch costs decrease, more companies may use space.(打ち上げ費用が下がれば、もっと多くの企業が宇宙を利用するかもしれない。)
「必ず増える」ではなく「増えるかもしれない」。予想と事実を分けるために、mayを使っています。
安さの理由まで確かめる
H3の部品選びは、専用品の範囲を見直し、他の産業で作られている部品の中から、必要な条件を満たすものを評価して使う取り組みです。
価格が下がったと聞いたとき、何を変えて安くしたのか。そのうえで、必要な性能をどう確かめたのか。そこまでたどると、コスト削減のニュースも、少し具体的に読めるようになります。
参考資料
2024年の試験機2号機向け資料。冊子68〜69頁の生産方法、69頁「14.4 自動車部品の導入」を参照。
[2]日本航空電子工業「次世代大型基幹ロケットH3を支えるJAEの慣性センサユニット」
H3用機器の開発・製造企業による説明。ページ内に明確な公開日表示は確認できませんでした。
[3]JAXA「H3ロケット試験機1号機 打上げ失敗の原因究明に係る報告書」
2023年10月26日。8頁「1.3.2 H3ロケットの電気系システム」を参照。
資料確認日:2026年10月23日。この記事は部品選定の考え方を扱い、最新の打ち上げ価格や運用状況を評価したものではありません。
